「ストップ・ザ」の謎

家の近所を歩いていて、よくある「地域のスローガン」的なポスターを見かけた。そこにはこのように書いてあった。


ストップ・ザ・火事!


火事を出さないように火の始末には注意しましょう、ということはわかるのだが、それにしてもこのスローガンはなんとも気持ちが悪い。なんだ、この「ザ」は?

"the"とか"a"とかの使用法については、多くの英語学習者が悩まされた経験を持つところだと思う。僕ももちろん類に漏れることなく、中学・高校の頃にきっちりと間違いまくった記憶がある。しかしそのお陰様で、一般的な"the"の用法はほぼ正確に理解できている……と思う。ごくごく簡単に言えば「その/あの/例の/唯一(の集団)に決めることができる」という認識で、大ハズレは無いだろう。

そこで、「ストップ・ザ・火事」である。なんだか、「例のあの火事」だけを阻止すればいいような気がしてくる。他の家が火事になろうとどうでもいいのだ。とにかく、あの火事だけは絶対に阻止しなければ!!


英語を学び始めてから10年以上になる。日本では、一般的には中学生から英語教育が為されるわけで、僕の英語歴は初心者の部類に入るだろう。しかし、そんな初心者すらこれには違和感を覚える。

どうも、「ストップ・ザ」というのが一種の熟語になっているように思う。試しに「ストップザ」でググってみた。中には正しい用法のものもあるが、全体的にはなかなかの眺めだ。「ストップ・ザ・暴走族」などというのもある。「暴走族そのものはどうでもいいから、とにかく毎日うちの前を爆走していくあいつらだけをなんとかしてくれ!!」なるほど、正直でよろしい。

そういえば、さらに凄まじいものになると、「STOP THE KOIZUMI」というスローガンがあった。固有名詞につけるというあたりに、強烈なインパクトを感じたものだ。


ただの揚げ足取りで終わるわけにはいかないので、僕なりの考察をしてみたい。結論から言えば、恐らく英語の"the"と日本語の「ザ」は異なるのだ。

まだ英語を学習する前の幼い日の僕にも、「ザ」なる謎のコトバはインプットされていた。そして実際に使っていたように思う。ここでは、それが文法的に正しかったかどうかが問題なのではなく、僕が色々な文脈から学び取った「ザ」はどのように使われていたのかが問題なのだ。そこで、少し記憶をたどってみる。僕は「ザ」をどのように使っていただろう。

そこで思い出すのは、幼稚園のときの同級生Tのことだ。彼はいつも威張っている同級生Kの腰巾着のような奴で、僕は彼のことが気に食わなかった。そのTが、ある日ウ●コをもらしたのだ。僕はどうするか。当然、からかって馬鹿にしまくる。なんといっても幼稚園の子供。ウン●大好きである。僕が大喜びで彼につけた不名誉なニックネームは、こうだ。


ザ・ウ●コ


強烈である。今思い出しても、あまりにも強烈である。ウ●コ大好きな子供たちは、その言葉が口に出されるたびに笑い転げていた*1。その笑いを誘発するにあたって、やはりこの「ザ」は重要な役割を果たしていたように思う。

これをふまえて、僕の独断と偏見に基づいた感覚的な結論を。日本語の「ザ」は、ズバリ「効果音」なのである。「ジャジャーーーン!!」とかいう、効果音。しかも、どのような効果音にも適応できるのがミソである。

例えば、上記の例で言えば、間違いなく「ザ」は「ぶりぶりぶりぶりっ!」という効果音を代弁*2していたはずだ。「ザ・火事」の場合は「ボォォォォオオオッ!」という感じか。恐らく「ザ・小泉」ともなると「ゴゴゴゴゴゴゴ……!」的な、「どくさいしゃ こいずみ が あらわれた!」(ドラクエ風)という感じだろうか*3

ただ、この用法のためには、やはり「ザ」とカタカナで書いてあることが必要だ。「STOP THE KOIZUMI」とかだと、僕としては「単純に文法ミスをしてしまった」ような印象を受けてしまう。なにより、これでは効果音が聞こえてこないではないか。


「日本語の『ザ』は効果音である説」はどうだっただろうか。僕としては、アホらしくもありながら、結構的を射ているのではないか、と思っている。だけど、やはりしょーもないエントリである。口直しにというのも失礼な言い方で恐縮だが、色々と調べているうちに関連する事柄についてプロの翻訳者の方が書かれたエントリを見つけたので、参照されたい。この次のエントリも含め、大変勉強になった。


最後に。本エントリにおいては、心ならずも大変お下品な言葉が飛び交ってしまったことについて、お詫びいたします。でもちょっと楽しかった。はっはっは、いつまで経ってもガキだなあ。ウ●コ〜〜!!

*1:親分であるKも笑い転げていたのは気の毒だった

*2:「大便」とかかってますね。わざとじゃないです(笑)

*3:僕の政治的思想とは無関係です、念のため